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「マンハッタン原則」の12の行動原則

1つの世界、1つの健康

こうした流れを受けて、2004年9月にヒト、家畜、野生動物の間で起こる感染症の統御についてのシンポジウムが、ニューヨーク・マンハッタンのロックフェラー大学で開催されることになったのです。国連の組織であるWHO、FAOをはじめ、アメリカのCDC(米国疾病管理予防センター)、USGS(米国地質研究所)、カナダのCCWHC(共同野生動物健康センター)、コンゴ共和国のデ・サンテ・パブリック国立研究所、世界銀行、主催者の野生動物保護協会など、多分野の機関が参加しています。

この場で「One World、One Health」(1つの世界、1つの健康)という「マンハッタン原則」を象徴的に表すメッセージが打ち出され、人獣共通感染症の予防、まん延の防止、生態系の保全のために、それぞれの国際機関が分野を超えて協力しあう「12の行動計画」に結実しました。

「One Health」はヒト、家畜、野生動物の健康は1つという考え方で、医学と獣医学等が連携する必要性をのべています。これに対して「One World」には、ヒトと家畜と野生動物の健康、われわれすべてを支える基盤となる生物多様性の保全には、水や土壌、空気など環境そのものの清浄性、健全性が大切だという考え方が盛り込まれています。

「12の行動計画」のうち主なものを挙げてみます。

・人間と家畜、野生動物の健康がリンクしているということ。この健康は、生物多様性と生態系機能にもリンクしていると認識すべきである。

・土地と水の使用法の決定が健康維持に深く関連することを認識すること。この認識に失敗すると生態系の弾力性は失われ、病気の出現・拡散が起こる。

・野生動物の健康科学はグローバルな疾病の予防、監視、モニタリング、規制の強化・緩和に不可欠な要素である。

・動物種を超えて広がる新興・再興感染症への予防、監視、モニタリングに前向きに取り組む必要がある。

・政府、地域住民、私的・公的(非営利)部門が国際的な健康と生物多様性の保全に立ち向かうための協力体制を確立すべきである。

・新興・再興感染症の早期警戒体制を確立するための国際的野生動物疾病監視ネットワークの確立と、その支援を行う必要がある。

・世界の人々の教育と啓蒙、健康と生態系に関する深い理解が必要である。この感染症を抑えていくためには、政治的な介入、社会
・経済的なアプローチも組み込んでいかないとこれには勝てない。

そして、結語として、「問題の解決には、昨日までのアプローチではだめだ」「政府機関・個人・専門家・各分野の壁を乗り越えるしか方法はない」と踏み込んでいます。

そして医学と獣医学の連携が始まった

世界に3つ、世界動物健康機関(OIE)がつくった野生動物のコラボレーションセンターがあります。南アとカナダ、アメリカで、特に素晴らしいのはアメリカ・USGSの国立野生動物健康センターです。これは米国地質研究所の生物資源分野の1つですが、職員70名以上の他に、世界中から若手の研究者を呼んでいます。

「野生動物とエコシステムの健康のために、科学に基づく政策決定を促進させて、情報提供、健全な科学、技術支援を通じて国と自然資源に奉仕する」目的で設立されましたが、実際には情報収集だけではなく、かなりハードもソフトも充実しています。

日本が追いつく目標になるところだと思います。

また、2012年に世界医師会と世界獣医学協会が協定を結び、「マンハッタン原則」の
「One World、One Health」の理念に基づいた協力関係を築きました。

それを受けて2013年に日本医師会と日本獣医師会が学術協定を結んでいます。2015年5月にマドリードで開催された世界医師会と世界獣医学協会による「One Health」に関する国際会議には、日本の医師会と獣医師会のそれぞれの代表が参加して日本の状況を報告しました。

このように、徐々に分野を超えた連携が始まりつつあります。「マンハッタン原則」にはそうした力があるのだと思います。

「吉川泰弘のホームページへようこそ!」より